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日々の研修だより

2020/03/10

ドライマウスについて

ドライマウスは唾液の分泌が減少し、唾液の質が変化する疾患である。本症により齲蝕や歯周病のリスクが上がるだけでなく、感染症、誤嚥性肺炎、味覚障害、上部消化器官の障害、摂食嚥下機能の低下など、様々な全身的な疾患の原因となる。さらに、唾液量が著しく減少したドライマウスの口腔内では、常在していたカンジダ菌の増殖が認められ、これに起因して口腔内の不快感をはじめ、舌痛症や粘膜疾患など様々な病態をもたらすことも知られている。

唾液量を低下させる原因としては、①シェーグレン症候群、頭頚部腫瘍に対する放射線治療、腫瘍や外傷、糖尿病などによる唾液腺組織の障害、②薬物(向精神薬、利尿剤、カルシウム拮抗薬、抗ヒスタミン薬)の副作用、うつ状態、ストレス、糖尿病などの全身疾患による神経-唾液腺間ならびに細胞内情報伝達障害、③自律神経障害の三つがある。また、口呼吸などにより口腔からの水分の蒸発が多くなると、唾液分泌量の低下を認めなくても口腔感想を呈する。

ドライマウスの対応は、原因療法と対症療法に分かれる。原因療法では、基礎疾患がある場合はその疾患の治療を継続し、薬剤の副作用から生じる症例に対しては、薬剤の変更や減量を提案する。ストレスなどに起因する医学的に説明できない症例には、薬物療法の他に自律神経訓練法や認知行動療法の実践が有効である。一方、原因が特定できない、あるいは原因が除去できない症例では対症療法が必要になる。自己免疫疾患であるシェーグレン症候群には唾液分泌促進薬の処方が可能であるが、多くはそれ以外が原因によるドライマウスであるため、ガムの咀嚼や口腔周囲の筋肉の運動などによる唾液腺を刺激する療法、ジェルやスプレーなどの保湿剤の使用の歯かにマスクの着用もよく用いられる。

国内の患者数は少なくとも800万人は存在し、潜在患者を含めると3000万人と推定されているが認知度は低く、医療機関を受診していないことが多い。

「参考文献」高齢者への歯周治療と口腔管理 吉江弘正ほか

研修医:餅原 芳文